ヤンデレヴィクトル氏による幸せ身代わり計画【完結済】
第2章 身代わりの話
「はい、熱いから気をつけてね」
紅茶の横にヴァレニエの乗ったスプーンも数本小皿に乗っている。
(夜にこんなに糖分をとるなんてなんて罪なティータイム…)
「ありがとう、いただきます」
いれたての紅茶の表面にふぅー、と息を吹いてから少しだけ口に含むと仄かな紅茶の香りが広がった。
「美味しい」
「口にあってよかった。この茶葉ちょっと奮発したんだよー」
桜の頭にリビングレジェンドの奮発っていくらだろう、と疑問が浮かんだが、それを聞くのは野暮だろうとさっさと片隅に追いやり、ケーキに手をつけた。
(ケーキも高級店のものなのかな?)
ぱくりと口に含めば上品な甘さと滑らかな口通りにほぅ、と吐息が漏れた。
「美味しい?」
「うん、美味しい、ありがとう」
桜が幸せそうな顔でケーキを食べ進め、ふと視線を上げれば、頬杖をついたヴィクトルが桜をじぃっと見ていて、もしやクリームがついてるのかと慌てて確かめるも指には何も付かない。
「なにか変だった?」
不安になって直接尋ねれば、彼自身も桜を見ていたことが無意識だったようで、え?と小さく声を漏らした。
「見られてた気がしたから、気のせいならいいんだけど…」
「あー、多分サクラが家で何かを食べる姿を見るのがはじめてだったから見てたのかもしれない、気を悪くしたならごめんね」
言われてはじめて桜はいつも飲み物を貰うが、なにかをこの家で食べた事が無いことに気付いた。
お互いに裸は見たことがあるのに、食事の姿を、見たことがないのが、やはりこの関係の歪さを再認識させる事となった。
なんとなく気恥しい気持ちになりながらも、紅茶とケーキを平らげて、少し落ち着いたところでベッドへ誘われる。
「じゃあ、ユーラ今日もよろしくね」
「こちらこそよろしく、ヴィーチャ」
そうして、二人はまた、歪な形でお互いを求めあった。