爆乳政治!! 美少女グラビアイドル総理の瀬戸内海戦記☆西海篇
第5章 悪意 中國山地
「長電話かと思ったのに」
傍らの男に対し、横たわった女は怒気を孕んだ声を投げた。
「……あなたに、何の関わりがあるの?」
「貴方は彼といつも長く話しているからな」
そんな事、と言いかけて女は無駄を悟って止め、代わりにポツリと漏らした。
「……彼は忙しい人。私だけのものじゃないもの」
男は手に持った注射器の液体に目を通した。漏れた言葉を聞いて、少し毒を吐きたい気持ちになった。
「そうかね。彼は実に無駄をしているのだな、それは」
「あなたに何がわかるの? 何でもいいわ、さっさとどうにかしなさいよ」
投槍な言い分に、男は少しだけ魔が差した。
「構わないのか。父とは言え、血の縁などないのだぞ?」
「知ってて言ってるんでしょうね」
吐き捨てられた恨み節に、自分の軽薄さを男は呪った。
「……覚悟は問うた。最早、私が躊躇う理由は無い。始めようか」
注射針を肌に当てる。その前にアルコールで湿らせた脱脂綿を以て、男は女の肌を拭いた。白い肌。若々しい、水も弾くやもしれぬ艶をしていた。
女は少し、躊躇ったのか、唐突に男へ問うた。
「お金は?」
男は先ほどの魔が彼女を戸惑わせている事を察し、内心酷く悔いた。
「既に届いている。ベルリンからスイスを介して、十分に洗った金だ。問題は無い」
男の答えに、女はただ溜息をついた。
「……出所、聞かなきゃよかった」
「国連事務総長御用達のルートだ。この国のメガバンクより国際的信用がある。安心しなさい」
「……わかった。信じるよ、イオン マリカ(Ion Marica)」
男の手が止まった。懊悩は暫く、男を苦しめるであろう。
だが、彼女の覚悟、これ以上揺らがせてはならない。
「お休み、お嬢さん。アラームはこちらで仕掛けておく」
注射針が白い肌に刺さる。男の親指はゆっくりと動き、女は見ている。
男は女をもう見ようとしなかった。この世界、タダで変わりはしないのだ。この女が礎となるか、或いは最初の成功者となるか、もう考えたくはなかった。
注射器が抜かれ、針の跡に綿を置く。その一連の動作を見ながら、次第に微睡(まどろ)みに落ちていく女には、ふと、瞬間に頭に過(よぎ)った事があった。女は案の定、悔いた。
―――――もっと、話しておけばよかった。