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お菓子の魔女の言う事には。

第2章 お菓子の魔女の正体は。


『…起きて…、君、起きて…』

また、誰かに呼ばれる声が聞こえる。どこか現実味の無い浮遊感、白く霞がかった景色。これは夢だ。

でも、この夢の事を思い出せればきっと、俺は過去を取り戻せる。そんな予感がしている…―――。

「(…寝てたのか…)」

緩慢な動作で頭を持ち上げようとしていると、隣から『あ、起きた』と声が降って来た。

重い瞼を上げると、クラスメイトらしい女子がニコニコ愛想の良い笑顔で座っていた。

「藤木君よく寝てたね、疲れ気味?」
「…誰だ?」
「誰でしょう?」
「…」

極力人付き合いを避けている遊作に、何十人といるクラスメイトの一人の名前は分からない。

もしや面倒くさい奴に捕まったのでは…と逃げ道を探す為に辺りを見るが、教室にはもはや誰もいない。

と言うか何故この女生徒は残っているのか。授業が終わったなら帰れよ。
そう心の中で悪態をついた瞬間、遊作は自分の座っている位置に気付いてハッとした。

「…悪い」

女生徒の位置は遊作と教室の壁の間。つまり遊作が眠っていると通路に出られない。帰るに帰れなかったのだろう。

「起こせば良かったのに…」
「ううん、いいんだよ。僕パズルデュエルしてたから」
「パズルデュエル」

珍しいと思った瞬間、声に出ていた。デュエリストたるもの、どんなに隠しても関連用語に反応してしまうのは悲しい性なのか。

さっさと立ち去れば良かったのについ話を続けてしまった。
上手くタイミングを見て帰らなければ。

「そう…と言うか、パズルデュエルしてたらデュエルディスクのAIさんに話しかけられてね。
盛り上がって全然解けないまま時間が経っちゃった」
「…」

オイ。
俺の意識のない所で何を勝手に作動してるんだ、お前。

ギロリとインストールした、もとい、捕獲したAIことイグニスを睨む。ディスクからは『ヒッ』という音声が流れる。

余計な事を話していないだろうなと無言の圧力をかけると『な、何も変な事は言ってないゾ!』と回答が返ってきた。

「藤木君は寡黙だけどそちらの彼は賑やか、バランスとれてて良いな」
「やかましいの間違いだろう」
『ヒデェ!』
「ははは、漫才みたい!」

いくら言葉を話せども彼女の名前は全く出てこないが、嫌味のない笑顔はどこかで見たことがある。―――…気がする。
クラスメイトなのだから当たり前なのかもしれないが。
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