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いとし、いとし【短編集】

第22章 予選なんて待てない【hq 東峰旭】


「旭くん。大丈夫だよ。烏野バレー部強くなったじゃん。前みたいにボコボコにされたりしないって。ね?」


小声ではあるけども、私なりにめいっぱい励ましたつもり。

でも、
目の前の彼は、再びため息をついた。


「あのな…。別にヘコんでないから…。ちょっと、話があっただけ」

「えっ?話?何?」


聞き返せば、丸めた背を伸ばして姿勢を正した。

屈んでくれていた位置から、少しだけ、旭くんの顔が上にあがる。



「あのさ、……た、ら…く…ない?」



少し距離が出来た事で聞き取りつらくなってしまった。


「えっ?何?」


旭くんの裾を少し引いて、彼を見上げる。

すると、『バッ』と音がたつ勢いで私の手が払われ、そのまま『ガシッ』と両肩を掴まれた。



「あの…旭くん?」


「……ってくれ」


「ごめん…何?」


「春高予選、突破したら俺と付き合ってくれ‼」



突然の叫び声に、私の身体と思考回路は固まり、周りの視線はこちらへと向く。


えっと…。
私、今、告…白され、た?



「じゃぁ、そうゆうことだから…」


私の思考が戻る前に走り去っていく彼。



『そうゆうこと』って…

私、返事してないよ…。


それよりも、

今、私が周りの視線を一身に浴びている事を彼は分かっているのだろうか?

分かって走り去って行ったのだろうか?


きっと明日は、いい晒し者になるだろう…。

それでも、
旭くんも同じ気持ちであった事に、
込み上げてくる嬉しさに、

にやける顔を抑える事は出来なかった。
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