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いとし、いとし【短編集】

第38章 なりたかったけど、なれなかったの!!【刀剣 包丁藤四郎】


「主って、やっぱり人妻だったのー?」


スパーン!と障子扉が開き、姿を現したのは最近やってきた癖の強い刀。包丁藤四郎。


「黙ってるなんてずるいー」
と、頬を膨らませて仁王立ちしている。


可愛いけど…

可愛いけどさ、

とにかく『人妻』『人妻』連呼の彼は、最近の悩みの種だ。




「だ・か・らぁ、人妻じゃ無いって言ってるでしょ?」


「だって薬研が言ってた!!夫婦(めおと)になる人が居るんでしょ?」




どうだ!と言わんばかりに胸をはる彼に、私の気分は最高潮に落ちる。


せっかく、じろちゃんの所で皆で楽しく呑んでいたと言うのに…。


薬研の奴め…。
でも、仕方ない。審神者を始めた頃の私は、決まっていた結婚がダメになって荒れていた。

寿退社する予定だった職場での哀れみの目に耐えかねて、やけくそで審神者になったのだ。


初鍛刀の彼は私が荒れていた時期も、その事情もよく知っているからしょうがない。



「あのね…」


正確には、夫婦になる人が『居る』じゃなくて『居た』。

三十路手前で、長年付き合ってやっと結婚まで取り付けた彼氏に振られたんだよ。

両親への挨拶も済ませて、後は式を上げて籍を入れるだけって時に、『結婚なんて自信ない』ってあっさり捨てられたわけよ。


5歳下の可愛らしい子に取られちゃったわけ。

結局、男なんて若くて可愛い子にコロッと靡いちゃうわけ…。



チビチビと酒を煽りながらその旨を話すと、




じろちゃんは

「そんな男、呑んで忘れちゃいなさい!!」と、私の猪口に酒を注ぎ、


「ほれほれ」と日本号は煽る。



「祝言の直前に心変わりし逃げ出すなど、なんとも情けない」と、蜻蛉切は怒り、


「我が主になんたる仕打ち!!」と、長谷部は抜刀しそうな勢いで立ち上がる。


はぁ、優しい。皆、優しい…。


「もう、吹っ切れてるから大丈夫だよ」

気をつかってくれる皆に言葉をかければ…



「なんでだよー!!」と包丁が怒鳴った。
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