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いとし、いとし【短編集】

第31章 甘えたいのは子どもだけじゃない【刀剣 和泉守兼定】



「えっ?は?」

堀川の思いもよらない言葉に、思わず驚きの声が漏れる。


「短刀ちゃんならともかく、和泉守みたいな大きな刀がそんなわけ…」

言いながら、和泉守を見やれば、私や堀川の言葉を否定する訳でもなく、ただ顔を真っ赤にしてうつむいていた。

「えっ?本当に?」


問いかければ、また、フイと横を向く。


何?この可愛いの。
デカイくせに、めちゃめちゃ可愛いんですけど…。


「だったら、和泉守さんも並びましょう!」

と、秋田が和泉守の片腕を引く。


「しょうがないですよね。和泉守は、からだはおおきいですが、ぼくよりうんと、うんと、とししたですからね。ほら、はやくはやく」

今剣にももう片腕を引かれて和泉守は私の前にやって来た。

「屈んでください。あるじさまの手が届きません」

五虎の言葉に従い、「ほらよ」と膝を折って屈む彼。

目の前に差し出された頭を優しくなでると、ハラリと綺麗な髪が広がり、嬉しそうに和泉守の背後に桜が舞った。

そんなに撫でて欲しかったのか…。



「あっ!せっかくだから蜻蛉さんも」

「いえ、自分は…」



断る蜻蛉切と私の間で、スッと立ち上がるのは、先程の不機嫌さは微塵も感じ無いほどの『最近流行りの格好いい刀』基、『うちの本丸の可愛い刀』



甘えたいのは、ちびちゃんだけじゃなかったのか…。




そんな事があってから、遠征の出迎えは主のナデナデが、我が本丸の慣例となった。







そして今日…

あの頃とは違い、充分すぎるくらいに充分に練度が上がった和泉守は修行に旅立つ。


「行ってらっしゃい」

「あぁ。行ってくるぜ」

見送りの為に玄関口で声をかけると、

ふと、私の頭に手のひらが乗って、わしゃわしゃと髪が揺れた。


和泉守が私の頭を撫でている。


「えっ?あっ…」


不意に頭を撫でられた事で、ほんのりと顔に熱が灯ると、「いつもの礼だ」と彼は笑った。




「じゃあな!!」

新撰組の刀達に見送られて、手を振る彼の姿に、

帰ってきたら、めちゃめちゃに撫で回してやろうと心に決めた。

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