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いとし、いとし【短編集】

第28章 全ては私のエゴなのかもしれない…【刀剣 同田貫正国】


「たぬ。入るよ」


閉められた障子越しに声をかければ、
「へーい」と、やる気の無さそうな声が聞こえる。


すすーっと滑りのよい戸を横に開くと、同田貫は布団に横たえていた身体を起こした。

「なんだよ。次の戦か?」


人の心配を他所にキラキラと目を輝かせてくれちゃう彼。
戦好きもここまで来ると呆れる。



「その怪我で戦なんか行けるわけないでしょう?」


「こんなのかすり傷だ。つばつけときゃ治る。なぁ、次の戦はまだかよ?」





「ねぇ、たぬ」

床に座る彼に合わせて、私も敷かれた布団の隣に座った。



「私の言った事、わかってくれた?」



問いかけるように彼の顔を覗き込む。




「うるせーな‼俺達は武器なんだ‼武器は強くてなんぼ。戦で散ってこそ武器の華だ‼わかってねぇーのはあんただろう?」


語気を強めて話す同田貫。


抜く刀は手入れ中で携えてはいないが、今にも抜刀しそうな彼の気迫はイライラを隠そうともしない。


彼のあまりの剣幕に怖じ気づきそうになる。


それでも…
私の思いはちゃんと伝えなきゃダメだ。

私はけして、出来た審神者ではないけれど、


『折れて欲しくない』
『無事に帰って来て欲しい』


これだけは譲れない。




「たぬ。たぬはもう、私の家族だから。私は武器だとか、道具だなんて思ってないから…。申し訳ないけど、いくら怪我が治っても、わかってもらえるまでは出陣させないからね」


それだけを言って立ち上がった。


話の途中で、ふて腐れて後ろを向いて寝転んでしまった彼。

その背中が、やけに寂しそうだ。


でも、

でも…

ごめんね。


望まれてもいないのに顕現させて、
こっちの都合を押し付けて…

同田貫にとったらひどく勝手な話だろう。


すすーっと滑りのよい戸を再び開けて、そして、後ろ手で閉める。



たぶん、彼が分かってくれる日はまだまだ先になるだろう…



「くそっ‼戦に出られねえんじゃ、意味ねぇだろうが!!!」


障子扉の向こうから聞こえる、彼の声に、ぎゅっと胸が締め付けられた。
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