第3章 雨雲と洗濯
雲行きが怪しいな……雨が降る前に洗濯物を取り込んでおかないと。
不運だったのはその日の洗濯物がシーツ類の大きい布ばかりなので、どうしても取り込むのにもたついてしまう。
毛倡妓め、わかってて言ったな。
「まったく人使いが荒いんだから」
「あの、首無様……」
この忙しい時に、と後ろを振り返ると何故か咲雨がいた。
というか初めて咲雨から話しかけてくれたことに驚いて、情けないことに声が出ない。
「わた私も、お手伝いしてよろしいでしょうか……ああすみません! 私みたいなジメジメした女が洗濯物を取り込むなど、」
「ほ、んとうに!? じゃあ手伝ってもらってもいいかな」
「あ、え、はい!」
驚きが抜けず声が裏返ってしまったが、咲雨には気づかれていない様子。良かった。
初めて咲雨と一緒に仕事したな。
咲雨は慣れているのか俺よりも取り込むのが速かった。凄いなぁ。
「凄いね」
「え、と何がでしょうか」
「いや、洗濯物取り込むのが速くて凄いなって」
「い、いえいえ! ここに来てからです。洗濯物を取り込んだりするのは、ここに来て始めて経験しました。今までやったことがないので、最初は遅かったのですが、みなさん怒らないでこれから慣れればいいと仰ってくれて……本当にありがたい限りです」
そうか、咲雨がみんなと上手くやっていて良かった。
全て取り込むとポツポツと雨が降り始めた。
「ちょうど降ってきたね」
「ええ、お洗濯が濡れなくて良かった」
「……ねぇ咲雨は俺が嫌い?」
恐らく今を逃せば咲雨と話すのはまた難しくなるだろう、これを気に聞いておかないと。あまり聞きたくはないんだけど。
「えぇ!? そんなことはありません!」
「そう?」
「はい! 私が首無様を嫌いになるはずがありません! むしろ、私のほうが……」
おれが俺が咲雨を嫌うって? それこそありえないよ。
嫌いだったら話しかけたりしないし。
「……私は、弱い妖怪です。雨を降らせることしか能がない。雨は、嫌われます。ジメジメするし、お洗濯も乾かないし、なんとなく暗いし」
「でも雨が降るから緑が育つし、水不足だってない。それに水も滴るなんたらって言うだろ?」
「それは……首無様のことですか?」