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忘却鴉

第1章 二人の日常


 ユリさんのアパートからスーパーまでは片道で30分はかかる。3時でも子供が走り回っているのは夏休みだからと教えてもらった。

「なにか見知ったのでもあった?」
「見知ったものはありませんが、スーパーまでの道は覚えてしまいそうですね」
「あら、それじゃあ今度は買い物でも頼んじゃおうかな」

 2人でクスクス笑いながらスーパーについた。
 今日はひき肉が安いからハンバーグにする? 昨日の餃子の餡がまだ残ってますよ、なんて他愛もない話をしているとまた変な気が起きてきて……。

「なんかこうしてると新婚さんみたいじゃない?」

 同じことを考えてたなんて!
 急に真っ赤になった俺が面白いのかまた笑われてしまった。恥ずかしい。

「からかわないで下さい!」
「でも今だって買い物デートでしょ?」

 絶対確信犯だ!
 なんだか俺ばかりが意識しているみたいでなんだかすごく悔しい。

 色々あったが(牛乳が切れているのを思い出してレジの途中で俺が走ったり、玉ねぎが無いのも思い出して俺が走ったり……)今夜はハンバーグを作ることになった。

「私今まで一人暮らしだったからさぁ、ちょっと寂しかったの。でも今は黒羽丸が居てくれるから楽しいよ」

 帰り道、ユリさんに言われた。
 俺はこの家を出ていかなくちゃならない。でも記憶が無ければずっと一緒にいられるんじゃないのか?
 自分がどれだけ浅まいことを、図々しいことを思っているのかわかっていてる。
 願わくばこの平穏が

「この日常が」
「ずっと続けばいいのに/ずっと続けばいいのに」
「黒羽丸何か言った?」
「いえ、何も」
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