第8章 覚悟
「ユリ殿、此度のこともう一度礼を言わせてもらいたい」
「私はたまたま黒羽丸と出会っただけですから」
「……ここからが本題なのですが。ユリ殿、我々は妖怪です。そして我らが仕えている組織は奴良組と言いまして、簡単に言えば妖怪のヤクザなのでございます」
「えっ」
「驚かれたでしょう。トサカ丸から大方の事情は聞いています。何も人と妖怪が恋をするなとは言いません。そういった例は意外にも多いのでございますから。
ただ我らが組は強大な組織、その身に降りかかる火の粉は多く、ヘタをすればあなたにまで火の粉が降りかかります。息子を救ってくれたユリ殿の身を案じればこそ、息子とは離れていただきたい」
本当に黒羽丸のお父さんだなー真面目なところがそっくり、なんて場違いなことをぼんやり考える。
ようやく黒羽丸の家族に会えたと思ったら離れなくちゃいけないなんて、考えてもいなかった。
「私は黒羽丸とは縁を切るべきなのでしょうか」
「辛いことを申すようですが、我々の隣は危険が多いのです。今回のように突然行方不明になったり、最悪の場合死んでしまうことだってあります。そして、ユリ殿がこちらに来るということはユリ殿にもそれが当てはまるということ。
人の一生は我々と比べると遥かに短い、その上人は弱く、すぐに命を散らしてしまう。わたくしは息子の恩人であるユリ殿は自身の人生を謳歌してもらいたいのです」
本当に優しいお父さんだ。自分のことでもないのにここまで人を気遣える人もいないだろうな。
こんなに気遣ってもらえているんだもの、私はお父さんの気持ちも汲み取るべきなんだろうな。
でも。
『俺はこれからもあなたのそばに居たいです』
黒羽丸は嘘をつくような性格じゃない、記憶が無くてもきっとあの言葉に嘘なんてひとつもない。