第4章 鴉がなくから帰ろ
ユリさんの家は出たがこれからどうしたらいいものか。
……そういえば俺お金もなければ何も持ってない……。
とりあえず下宿か寝れる場所を探して、バイトも探さなきゃ……履歴書を買う金は?
自分の不甲斐なさを痛感せざるを得ない……。
文字通り一文無し。どうしたら……
「黒羽丸!」
え?
一瞬の衝撃と愛おしい声。
「ユリ、さん?」
「なんで勝手に出ていくの!」
怒っている。
そういえばユリさんに怒られたのも初めてかもしれない。
「お金も何も持たないでなんで出ていくの! 借りる部屋の目星とか、どうやって稼ぐとか考えてたの!?」
「……考えてません」
「何かあったらどうするの? 住むところも食べ物も見つからなかったら?」
「……」
本当に心配してくれてるんだ。
「すみません。でも俺はこれ以上あなたに迷惑は」
「迷惑なんかじゃない!」
「黒羽丸はどうして頼ってくれないの? そんなに私頼りない?」
「そんな」
泣か、せてしまった……。
どうして……
「どうして、そこまで俺を気にかけてくれるんですか! 同情ですか! 記憶がなくて、哀れに見えるから、だから」
「好きだからよ!」
「黒羽丸が好きだから、だから心配してるの。黒羽丸と出会って一ヶ月も経ってないけど、真面目なところとか、実はおっちょこちょいな所とか、優しいところとか、気が利くところとか。確かに最初は同情してた。
けどね、一緒に暮らして、色んな黒羽丸の一面を見て、段々好きになって……このまま記憶なんて戻らなければいいとも思った、黒羽丸の帰る場所が私になればいいとか思った」
最低だよね、なんて。
俺の方が最低だ。逃げてばかりで、ユリさんはこうして俺に気持ちを話してくれるのに、俺は。