第3章 ひきこもり皇子。
最近になって、一気に寒さが押し寄せてきた。まだ11月の始めだというのに、今年は随分と冷え込むのが早い。晴れることは少なく、大きな部屋の中から見える景色は見ているだけでも寒々しかった。
まだ早朝。
早く目覚めてしまった私は、柔らかな羽毛が中に詰め込まれたベッドに体を沈めながら、窓の外を見ていた。そして、ベッドの隣の椅子に腰掛けて眠っているエドウィンに視線を移す。この無駄に大きな部屋にひとりっきりはまだ慣れないから、一緒にいてほしいとお願いしているのだ。椅子はやめてベッドで一緒に寝ようと言っても、椅子じゃないとだめだ、と言い張る。意外と頑固だ。
「姫様、もう起きたんですか?」
最近になって、ようやく口調が砕けてきた。まだ敬語ではあるけど、前よりは堅くなくて、話しやすいし聞き取りやすい。
「うん。エドウィンも起きてたの?」
「ええ、基本あまり寝ませんから。それに、妙に視線を感じまして」
エドウィンが少し意地の悪い笑みを浮かべる。
なんだ、気付いていたのか。
「エドウィンのその黒髪、とっても綺麗だったからつい。それに、瞳も綺麗。とても澄んだエメラルド色」
私が思ったことをそのまま伝えると、エドウィンが手で口元を覆って、軽く咳払いをする。数日間彼と生活してきたのだ。それが照れ隠しだなんてことくらいわかる。
「姫様の髪と瞳の方が断然綺麗です。燃えるように紅くて」
私は、自然と神に手を伸ばし、指を絡ませる。
「不気味がられちゃうけどね」
髪を隠さずに下町に出た時は、よく気味悪がられたものだ。近づいたから災いが……なんて、馬鹿らしすぎる。
「私は好きですよ、姫様の髪と瞳」
そう言って、エドウィンが微笑む。
自分は簡単に照れちゃうくせに、人にはさらっとこういうことを言えちゃうから不思議だ。思わず私まで照れてしまう。
実は、エドウィンには内緒で勝負していたりするのだ。照れた方が負け、という私の中だけのしょうもない遊び。今のところ、一度も勝てていない。