第1章 紅き姫の誕生
今日はみんながみんな浮かれている。
理由はおそらく、金曜日だから。
いや、今日という日だから、か。
なぜなら、明日から国王の座をめぐる、皇族同士の争いが始まるからだ。血を流しはしない。表向きは高潔で誇り高き争い。だが、実際はとても黒く、どろどろとしたものなのだろうと私は思う。
この王国の皇族家は、驚くほど美形ばかりだ。天は二物を与えず、というがそれは本当なのだろうか、と疑ってしまうくらい。いや、実際にそのことわざは大嘘なのだろう。
だが、こんなにもみんながみんな浮かれているのは、明日から皇族同士の争いが始まるから、だけではない。おそらく、美形の皇族たちの顔を拝めるからだろう。滅多に国民に顔を見せない彼らが、明日はその姿を私たち国民に晒すのだ。
どれほど浮かれているかというと……、
私がすれ違う人ほとんどから財布や金目になるものを全て盗んでいるというのに、誰も気づかないほどだ。
本当に、容易い。
いつもよりも収穫が多そうだ。
母から譲り受けた紅くウェーブする長い髪を肩から払う。
そろそろ、小屋に帰るか。