第20章 恋知りの謌【謙信】湯治編 〜車輪〜
「敵軍の人たちを宴に招くなんて…あり得ないことだよね?普通…。でも、わたしが織田のみなさんにきちんと挨拶できる機会を用意してくれようとしてるんだと思うの。
謙信様は…誤解されやすい方だけど、とっても優しい方なんだよ?」
はにかみながら、そう言う美蘭は、
秀吉の目に、目眩がするほど美しく映った。
…敵わない。
一瞬、
そんな感情が、秀吉の心に広がった。
「まさか、こんな風にゆっくりお話できる機会ができちゃうなんて、夢にも思わなかったけどね?ふふふ。……?秀吉さん?」
謙信を思い浮かべていたのだろう、頬を上気させて楽しげに話していた美蘭であったが、
考え込む秀吉の様子を気遣い、秀吉の顔を覗き込んで来た。
(何故そう言い切れる?)
たまたま気付いたのが先か後の違いではないか?
自分のこの想いとて、半端なモノではない。
運命の迷路で、たまたま上杉謙信と美蘭が先に絡み合っただけなのではないのか?
まだ祝言を挙げたわけではない。
美蘭は…
まだ誰のモノでも……ない…!
気付いてしまった美蘭への恋情。
それは、再会して、より深まってしまった。
言葉を交わす度、
触れ合う度、
とめどなく深まってしまう恋情は、
ついに、
せき止めていた筈の心の淵から溢れ出してしまった。
美蘭が座る木の切り株の前にしゃがみ込み狼煙を上げていた秀吉は美蘭に振り返り、
「美蘭、俺は…」
思いの丈が、言葉となり、あふれ出そうとした
その時
「…っ!秀吉さん!……危ない…っ!!!!!」
そう言って美蘭が切り株から立ち上がると、怪我している左足を庇うのも忘れたように必死の形相で秀吉に駆け寄り、
首に抱きついた。
「…っ…美蘭?!」
秀吉が驚いたのとほぼ同時に聞こえた
「……痛…ッ!!!」
美蘭の悲鳴。
よく見れば
美蘭の首に白蛇が噛み付いていた。
「美蘭!」
秀吉は顔面蒼白になり慌てて白蛇を払ってやったが
美蘭は首を抑えうずくまっていた。
蛇に襲われそうだった秀吉を、
美蘭が庇ったのだった。
続