第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
抱きついたまま、
ブラウスのボタンをはずす。
…でも、後ろからじゃ
あんまりうまくいかなくて。
『いっちゃん、あっち、行こ。』
綾ちゃんの目線が
部屋のほうを指す。
『ヤだ。ここがいい。
鏡の前で脱がせて後ろから…
あ、一緒になら、風呂入るのもアリ。
風呂場で二人でシャワー浴びながら…』
『いっちゃん、』
苦笑いしてる綾ちゃん。
『ね、ちょっと落ち着こうよ。』
落ち着け、なんて言われても。
『ムリ。』
まだボタンをまさぐってる俺の手を
綾ちゃんがそっと包んだ。
『いっちゃん、ちゃんと、欲しい。
…欲でいいから、思い切り愛しあお、ね?』
興奮で、鳥肌がたちそうだ。
『じゃ、あっち、行く。』
あっち、って言ったって、
ほんの数歩で隣の部屋…六畳程の和室。
『ベッドじゃなくて布団なの。
ムードなくてごめんね。』
綾ちゃんは押し入れを開けて
一人用の小さな布団を敷いた。
枕も、1つ。
柔らかそうな茶色の毛布を広げながら
俺を見上げて言う。
『いっちゃんには、この布団、小さいね。』
『そんなん、関係ねーよ。
俺、布団なんかなくたっていいんだし。
綾ちゃんがいれば、どこでもいい。』
薄暗がりの中だけど、
綾ちゃんが
嬉しそうな顔をしたのがわかる。
『…なんだよ?』
『ね、今の、も一回、言って。』
『え?』
『最後の言葉。』
『なんつったっけ?』
『綾ちゃんがいれば、ってとこ。』
『…改めて言わされると、恥ずい。』
『お願い。ちっちゃな声でいいから。』
…もしこれが彼女だったら、
多分、俺、2回は言わない。
ホントに恥ずいから。
でも、綾ちゃんの願いなら
きいてあげたくなった。
だって、
他にしてあげられること、何もない。
たった一言で、喜んでくれるなら。
『綾ちゃんがいれば、どこでもいい。』
『…あぁ、生きててよかった!』
『おおげさだろ?』
『ううん、ホントに。』
『…もっと、生きててよかったって
思わせてやろうか?』
『うん。』
暗がりの中、
器用にブラウスのボタンをはずしながら
俺を見上げて、
2回戦の始まりを告げる言葉は、
綾ちゃんから。
『…いっちゃん、来て。』