第2章 ー月ー
蔵に出入りする男達は、皆一様に白い化け物と交わることで、永遠の命を授かれると信じて疑わなかった。
遠い昔に八百年を生きた白い巫女が存在していという、俄には信じ難い噂を耳にしたからだ。
いつしか噂は噂を呼び、智の存在が一部の上流階級と呼ばれる男達の間で囁かされるようになった。
そして智もまた男達の精をその身に受ければ、いつか翔のように同じ普通の”人”になれる…そう信じていた。
幼い頃から繰り返された父の言葉を…
“遊び”だと教えられた行為を…
疑うことすら知らない智は、逆らうことなくその身に受け入れてきたのだ。
潤は智の口から語られた、あまりにも残酷で悲しい現実に、眩暈を覚えた。
潤が幼い頃から父のように慕い、尊敬し、憧れ続けた大野の主は、人が思うような仏なんかではなかった。
旦那様は鬼だ…
我が子ですら、男達の慰み者として差し出すなんて…
我が子を淫靡な性奴隷に仕立て上げ、私腹を肥やす為に利用していたなんて…
人の仮面を被った“鬼”。
…或いは悪魔の所業としか思えない。
潤は得体の知れない感情が腹の底から湧き上がってくるのを感じた。
それは、潤が未だかつて感じたことの無い、どす黒く、まるで全てを焼き尽くす業火のように熱い感情だった。