第1章 Linaria~この恋に、気づいて~
手を伸ばすと直ぐ側に、貴方が居る。
ほら、私の手をその温もりで包んでくれる。
その大きな手が好き。
ゴツゴツしてて、豆だらけの手が好き。
もっと、もっと、" 私 " に触れて甘い蜂蜜の様に溶かして?
だから" 私 "を呼んで…?
だから" 私 "を見て…?
え、見ているって?
違うよ…。
ねぇ…貴方は誰を見ているの…?
【Linaria…1】
「あ、気付かれましたね。今、先生を呼んで来ますね」
ぼんやりとする意識の中でそんな声が聞こえた。
確か、私はトラックに轢かれた筈。
だけど、こうして意識があるし、人の声も聞こえる、と言う事は…。
生きて、居る…?
それに、さっき誰かが先生と言った。
あぁ、そうか。此処は病院なんだ。
では、本当に助かったんだ。
ぼやけた視界を一度リセットするかの様に、キュッときつく目を閉じる。
そして再び目を開けると病院独特の天井が映し出された。
とりあえず、起き上がりたくて、上半身に力を入れてみるも、カチコチに固まった様に全く動く気配はなかった。
それもその筈。
私は轢かれ、アスファルトに叩きつけられた。
つまりは全身打撲と言う訳だ。
痛み止めが処置されているのか、痛みは関節が軋む程度で死ぬ程痛いと言う訳では無い。
はぁ…辛うじて動くのは首から上だけか。
何も出来ないと悟った私は、動く事を颯爽と諦め、暫くぼんやりとしていた。
すると廊下から数人の足音が聞こえて来る。
あぁ、私が意識を取り戻したから先生が様子を見に来たのかな?
そんな事を思っていると、足音が病室の前で一旦止まり、私に向かって入室の許可を求めて来た。
私は外に向かって返事をした。
だけども、出た声はガラガラに嗄れていた。
あぁ、声もダメだったんだ…。
私が汚い声で返事をすると病室の扉が開き、冷たい風が私の頬を掠めた。
寒いから早く閉めて貰いたいと思っていると、私を囲うカーテンが開かれ、先生と思われる人が入って来た。
「気分はどうかね」
そう先生に聞かれた事を最後に、私の耳は聞くことを放棄したんだ。
私は先生と一緒に入って来た人物に釘付けになった。
これでもかと言うくらい目を開いてその人を見ていたと思う。
何故、貴方が居るのでしょうか…。
そして…
此処は、何処…?