第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
【扉、開かれる運命】
「逃げられてしまいましたか…」
名前に僅かながらの隙を見せてしまった俺は彼女を逃がしてしまうと言う失態を犯す。
それからどのくらいの刻が流れたのだろうか、放心状態だった俺はいつの間にか山南さんが現れていた事に気が付かなかった。
「まさか、名前にあんな力があるとは思わなかった…」
俺はそう言いながら痛む脇腹を見ると既に赤く腫れ上がっていた。
この様子だと肋骨にひびが入っている事は間違いないだろう。
そう考えていると山南さんは静かに口を開き、こう言った。
「針の先程この薬を混ぜてみたのですが…」
これはなかなかに良い情報が手に入りました。
そう言った山南さんは懐からびぃどろで出来た小さな小瓶を取り出し、軽く目の前で振った。
「っ…!山南さん…あんたアイツを、名前を実験台にしたのか!?」
俺はそれを見た瞬間、脇腹の痛みなども忘れ山南さんに掴みかかっていった。
「おや、鬼の副長とも在ろう方が…」
何処か冷めた様な視線を俺に投げつけ、そう言い放った山南さんを睨む。
それと同時に掴んでい襟を乱暴に離した。
「…くっ、アレは一般人に使って良い代物じゃない!」
何を考えているんだ、山南さん…!
俺は乱れた着流しを整えるとその場に胡座をかきながら勢い良く座った。
暫く互いが無言でいると、先に口を開いたのは山南さんだった。
「本当に、彼女は一般人だと思いますか…?」
あの先を見据えた様な瞳の奥は、底を計り知れません。
そう言った山南さんに向けて俺は目を見開く。
だが、それも一瞬の事。
俺は何かを誤魔化す様に目を閉じ、呆れた風に言葉を山南さんに返した。
「何を根拠にそんな事を…」
「土方君、目に映るばかりが真実とは限らないのですよ」
俺の言葉を被せる様に強い口調でそう言った山南さんは静かにこの場を去って行った。
まるで俺に忠告しているかの様に…。