第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
【天、満ちる月影に】
「風間…どちらへ行くのです」
そんな、軽装で。
「…チッ」
また、面倒なのに捕まってしまった。
俺は天霧に向かって舌打ちをすると奴は眉間の皺を更に深くし、溜息を零す。
「今夜は祭り。町中はあの新選組らが大勢警備に配置している事でしょう。勝手に出歩き、厄介事に…」
「天霧…」
俺は天霧の名を呼び、小言に終止符を打つ。
「せめて、刀は所持して行って下さい」
貴重な時間を割かれた俺は少しだけ足を急がせる。
宿で月を見ながら酒を煽っていると甘い花の様な匂いの風が俺に纏わり着いた。
不思議な事もあるものだ。
その風は俺の手を引くかのように、外へと連れ出す。
「偶には風と戯れるのも悪くは無いだろう…」
そう呟いた俺は着流しと言う姿で風と共に流れようとしたその時だ。
天霧と出会したのだ。
俺は天霧の小言までは聞く耳など持ってはいない故に、奴の言う事を聞いた振りをし、表に出た。
その甘い風は、俺を何処まで連れて行くのか。
その様な事を思いながら風の通り道を歩いていると、静かな河原へと辿り着く。
「この匂いは…」
嗅いだ事のある様な、無い様な…。
「噎せ返る程の甘い花の香り…」
俺は気配を殺し、花に近付く。
河原の砂利を踏み締める音が響き渡ると、花は俺に気付き振り返った。
「…悪戯にしては良く出来ている」
風の戯れに付き合うのも悪くは無いな…。
花の香りは俺を誘い、翡翠の輝きを持つそれは俺を捉えた…。