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名の無い関係

第9章 貴族ごっこ


多すぎる!受け取れない!と女将さんとの押し問答があったが、どちらにしろ正規ルートでは売れない物なのだから、とアゲハが押し切った。
この街に長く暮らす人だからこそ、それを安全にお金に変える方法を知っているはずだ、と。
貴族からの贈り物を堂々と換金するなんて相手に喧嘩を売るも同じ。


「わかったよ、ならとびきりの物を買ってこよう。」

『ありがとうございます。』


部屋に戻りシャワーを済ませ荷物を整理した。
数日だが訓練をしていない体は緩んだ様な気がする。
窓から見える街並みは、いつも見ている街とはまるで違う国のよう。
行き交う人々の服装や持ち物もまるで違う。
この国は壁を隔てて三つの違う国があるように感じる。
小さな小さな世界しか知らない人間。
そして自分の居場所は、自分の世界はここではないと改めて感じていた。
はやく兵団へ帰りたい。立体起動で飛びたい。
ブレードのぶつかる金属音やワイヤーの射出音、勢いよく巻き戻す摩擦音。
体いっぱいに感じる風、そして常に付かず離れずの距離にいる死への恐怖。
普通ではないそれが、自分にとっての普通になっている。
だからこそ、一日を大切にできる。仲間を大切に思える。


『…はやく帰りたい。』

「なら君を独り占め出来る今を堪能しよう。」


いつの間にか戻っていたエルヴィンは、そう言うとアゲハを抱きしめた。
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