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名の無い関係

第9章 貴族ごっこ


着慣れないドレスや装飾品。
どうやって食べるのかもわからない様な高級料理。
鏡の様に磨かれたシルバーの食器類や、曇り一つ無いグラス。
奏でられるダンス音楽に、真夜中まで眩しい程に照らされる灯り。
目眩を起こしそうになる程のアルコールと香水の混ざった匂い。


「大丈夫か?」

『なんとか。でも、そろそろ無理かも…。』


化粧のせいで顔色が悪い事は分かり難くなってはいるだろうが、込み上げてくる吐き気はもう隠せそうにない。
今夜で三日目。
こうも連日パーティーにお呼ばれするのは贅沢な事かもしれないが、もはや苦痛でしかない。
昼間は中央王政府への調査報告や、関係各所のお偉い様達との会談。
そして夜は貴族からのお呼ばれパーティー。
これがあと四日も続くと思うと今にも倒れそうだ。


「それなら先に休ませてもらうといい。」

『でもそれはマズイんじゃ…。』


ちらっと今夜のパーティーの主催者の方へとアゲハは視線を向ける。


「大丈夫。ランスロット伯爵は君のファンだからね。」


年は貴族の中では若い方だが、小太りでいかにもお育ちのいいお坊ちゃん。
それが今夜のパーティーの主催者、ランスロット伯爵。
彼は調査報告をスリリングな話としてとても気に入っている。
毎回、壁外調査に出た後はこうしてパーティーを開き直接自分の屋敷に呼び、その話をしてくれと言うのだ。
特にアゲハを女性としても気に入っているようで、わざわざドレスを用意して贈り物として届けさせたりもする。
『これを着て来いってことでしょ』と自分の趣味ではないドレスでも、これは任務だ!と自分に言い聞かせアゲハはそれに腕を通す。


『もう少し頑張るよ、せめてご挨拶はしてからじゃないと…。』


嫌々ながら着てきたドレスを見せなきゃ意味がないとアゲハは引き攣った笑みを浮かべた。
それを見たエルヴィンはこれは本当にそろそろ退席させなければ、と内心焦り始める。
貴族のご機嫌をとり支援金を得たとしても、それを使うことが出来なくなっては意味がない。
彼女は欠かせない戦力の一人。
こんな所で体調を崩されるのは避けたい。


「ではこちらから挨拶へ行こう!」

『ちょ、エルヴィン?!』


グイッと彼女の手を取り足速にランスロット伯爵に近付く。
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