第3章 距離
『リヴァイ、今夜ちょっと時間ある?』
「今じゃダメなのか?」
訓練を終えた夕方。
夕食までの僅かな休息時間。
汗や埃で汚れた身体を早く洗い流したいと大浴場へ向かおうとしていたリヴァイをアゲハは呼び止めた。
『はやく綺麗にしたいでしょ?急ぎじゃないし、夕食の後に私の部屋に来て。』
場所は知ってるよね?と言ったアゲハにリヴァイは頷く。
分隊長になると個室が与えられる。
それは執務室とは別に完全な個人のプライベートな部屋だ。
とはいえ、兵団内の兵舎内。
夕食後と言っていたが、消灯時間は22時。
それまでの間に行けばいいだろう。
はやく大浴場に行かなければ他の兵達もどんどん汗を流しにやってくる。
潔癖症のリヴァイは、他人が使って濡れた足拭きマットや浴槽のお湯につかることが好きではなかった。
遅くなってしまった時はシャワーだけで済ませたり、外の井戸で水浴びをして済ませてしまったりしていた。
自分の部屋はまだ大部屋だ。
僅かな私物を置く棚とシングルベッドが自分だけのテリトリー。
つい最近まで自分の使うベッドの下にも主人がいたが、今は使われていない。
「お、お前の班も終わったのか?」
「あぁ。」
後から戻って来た同室の兵に声をかけられ、何気なくお互いに労わる言葉を掛け合う。
「でもさリヴァイはいいよなぁ。アゲハ分隊長って綺麗だし優しいし。」
「は?」
「だよなー!俺も第三分隊に行きてぇよ。」
禁欲させられているわけではないが、毎日激しい訓練に終われ、それが終わると消灯時間までの自由時間に外へ出る事は難しい。
休息日にはみな疲労回復のために使い、街へ出て女を買うなんてことをする事も少ない。
そうなると手近なところで自己処理となるのは当然のこと。
「アゲハ分隊長〜」
「いいよなぁ、ヤラせてもらえるってんなら俺、次の調査で死んでもいい!」
馬鹿馬鹿しい!とタオルを引っ掴んだリヴァイは部屋を出て行った。