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時をかける清光【刀剣乱舞】

第3章 承




主と大和守安定が本丸から居なくなって、およそ二週間が経っていた。
その日は今現在、実務の殆どをこなすへし切長谷部から加州清光へ唐突にお呼びが掛かった。

「時間が無いので手短に話す。今日呼び立てた理由なんだが……主から渡されたメモには何と書いてあったか、教えて貰えるか?」

二週間前、書き上げた報告書を長谷部のもとへ提出しに行った際、清光は主からの伝言だという折り畳まれた小さなメモ用紙を受け取っていたのだ。


「聞きたいの?下らな過ぎてビックリするよ?」

「ああ、構わない」

清光はわざと主の口調を真似して言ってやった。



「"冷蔵庫のプリン、賞味期限切れそうだったら食べてもいいよ"だってさ」

「……そうか。主らしいと言えば、主らしい」

主が居なくなってから急激に痩せてしまった長谷部は、それまで一文字に結んでいた口元を僅かに綻ばせる。
この本丸で誰かの笑った顔を久し振りに見た気がした。

「何か、最後の切り札になってくれると思ったんだが……俺の考え過ぎだった様だな」

そういう彼の瞳は、主を本丸に取り戻すんだと燃えていた昨日までとは打って変わって、輝きを失い全てを諦観している様だった。

「……長谷部、最後ってなんだよ」

清光の問い掛けにゆっくりと三秒。押し黙った後、長谷部は覚悟を決めたように一言二言、無慈悲な言葉を紡いだ。

「主の……罷免が、正式に決定した」

「……ひ、めん」

聞き慣れない言葉だと、つい繰り返す。

「審神者を、辞めさせられるんだ」

「……そっか」

そんなニュアンスなんだろうなとは、聞いた瞬間から清光も勘付いてはいた。


「そして俺達だが……政府の決定により、全員破壊されるそうだ」


「……え」


主を失った刀剣男士が歴史修正主義者へと成り代わった例が報告されているのだと。
言葉を失った清光へ、抑揚の無い淡々とした説明が向けられた。


逃げ場の無い絶望に手足を取られ、まるで泥沼に沈んでいく様な錯覚を覚える。



「他の刀達にも説明しなければいけないのだが、こればかりはどうも気が進まない。汚れ仕事も主の為と思えれば、容易いのだがな…」

自嘲気味に呟いた長谷部に対して気の利いた事も言えず、清光は部屋を後にした。


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