第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
「ヒヒっ…」
彼の笑いを最後に辺りはしんと静まり返る。
美人に囲まれて調子に乗った私は、余計な事を言ってその場を黙らせた。
私は彼等には"初めて"会うと言う設定なのだ。
向こうは私を名指しして来たから多少なりとも知っている訳なのだが、私の方は彼らの名前くらいしか知らないと言う事になっている。
あぁ、もう…。
どうしたら良いのか考えているのだけれど、生憎そんな余裕なんてある筈も無く、ただ黙りを決め込むしかなかった。
「…傾国の花よ、ヌシはほんに不思議よ、フシギ…」
この沈黙を先に破ったのは大谷様の言葉だった。
不思議と言った彼は私に近付き頬に触れる。
手に巻かれている包帯のザラりとした感触と塗られている薬草の匂いがとても心地良くて私は無意識に頬をすり寄せてしまった。
「ヒッ…」
私に触れた大谷様もそうだが、擦り寄せてしまった私も自分の取った行動に大層驚いた。
触れていた大谷様の手はゆっくりと何事も無かった様に下に落ち、不思議な瞳と私の視線が絡み合うと先に言葉を発したのはやはり彼だった。
「…ヌシの夢はあさましき事」
え…?
何…?
最初は何を言っているか分からなかったが、夢と言う言葉が出てきた瞬間ハッとなった。
何で知っている、の…?
「ワレらと共に参ろうぞ。その夢の終止が訪れよ…」
夢を、終わらせる?
出来るの…?
私はこの言葉しか聞いておらず、彼がニタリ、と含んだ笑いをしていたのを私は知らない。
「………………」
暫くして元就様が話の準備が出来たと呼びに来て二人は一緒に出ていってしまった。
残った私は先程の言葉が頭の中を占める。
ワタシヲ タスケテ クレル…
私の心は揺れ動く。