第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
「良いか、此処から動くなよ」
俺は刑部さんの指示に従い彼女が居る所へと向かうと
この場所より安全な場所へと移動した。
まぁ…安全とはいっても限度はあるが、さっきの所よりははるかにマシ。
「頃合を見て、また迎えに来るからな」
名前の頭に手を置き、心配するなと一言残すと俺は踵を返し刑部さんと合流する為に戻って行った。
途中、竹中半兵衛率いる軍勢の進行状況を把握する為、高台に登るとその状況は結構深刻な状況であった。
「島左近、ただ今…っ!!」
戻りました、と言う筈だったのだが、そんな言葉は三成様の禍々しい程の殺気により、一瞬にして塵となり消え去ってしまった。
「刑部さん…三成様は…」
俺は三成様の元へ歩む為に出した足を止めると、刑部さんに今の三成様の状態を確かめる為に話かけた。
すると刑部さんは方肩を竦め三成様を見ろと指をさす。
「そのままよ、ソノママ」
刑部さんの言葉通り、三成様はさらに酷く荒れ、俺の声も、刑部さんの声も届かず、誰一人と近付ける状態ではなかった。
片や尊敬する者、片や友人だと思っていた者…一度に大切な人間を二人も失ってしまったのだから無理もない。
それに、名前の事も…。
「三成は…致し方ない」
左近…参るぞ、と刑部さんから声がかかり、頭を振り思念を消し去る。
今はそれ所ではないはずだ。
起きてしまったのだから仕方が無い。
俺は進む刑部さんに続き、半兵衛様…いや、竹中半兵衛の軍勢にその身を投じた。
先程より事態は悪化していて、竹中半兵衛は針に糸を通す様に簡単に破城させて行った。
三成様の城はこんなにも脆かったのかと錯覚してしまう程に呆気ない。
崩れる城を目の前にし、横目で刑部さんの姿を見遣ると俺と同じ様に固まっていた。
刑部さんもきっと同じ事を考えていたに違いないだろう。
「…っ!刑部さん、とりあえず俺が突っ込むよ!」
三成様は…駄目みたいだ…。
俺は得物を両手に握り締め、竹中半兵衛の前に立ち塞がる。
後ろから刑部さんが何か言っているが、気にしていられない。
少しでも良い、
俺が、時間を稼ぐ…!
「…退くんだ、左近君…君を相手にしている時間はない」
左近、入ります!