第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
【thirty-ninth.】
日は落ち、空は群青に染まる。
その深く成りつつある空には美しい望月が浮かんでいた。
私は自身の城に着くとまず先にと名前様を休ませる為に彼女が使っていた部屋へと案内する。
「わぁ…こんなに素敵なお部屋をわたしが使っちゃって良いんですか」
と名前様は目を輝かせながら言う。
「良いも何も、お前の…」
今は名前ではなく、名前様である事を忘れ、思わずお前と呼んでしまった。慌てて自身の口元を抑え、横目で名前様を見やる。
どうやら私がお前呼ばわりした事に気付いていないようで少しだけほっとした。
名前様は自分の部屋であるのに、物珍しそうに眺める。
そんな姫を私は見つめ、心の中で語りかけた。
此処は、お前の部屋だ。
此処は、お前の城でもあるのだ。
お前は、何時まで私を忘れたままなのだ…。
早く思い出してくれ…。
半兵衛様の仰る通り、無理矢理な事は避けたい。
だが、それとは裏腹に私の心の中は早くと悲痛な叫び声が私を劈く。