第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
「嫌われた、な。きっと…」
僕は持っていた筆をゆっくりと硯に置き、一つ溜息を零す。
今日はもう執筆も無理だなと思い、席を立ち自室へ戻ろうと戸に手を掛け、徐に開けた。
「っ…!」
すると、先程迄想っていた彼女が扉の前にいた。
掌を胸の前で組み、瞳を揺らせ僕達は見つめ合う。
この空間には僕と彼女の二人だけ。
月の淡い明かりが僕と彼女を照らし出す。
「あ、あの…」
穏やかな月明かりの中、初めに口を開いたのは彼女だった。
その声で僕ははっと我に返る。
全く気配が感じられなかった。
だが、目の前に居る人物は紛れもなく彼女本人であった。
彼女であれ、気配に気付かなかった僕はどれだけ思いつめていたのだろう。
これでは豊臣の軍師失格だなと苦笑いをした。
僕は肩を竦めて居ると、彼女は途切れ途切れに言葉を紡いだ。
「部屋に、行ったら居なくて…」
もしかしたら、此処かなって…。
俯きながら話す彼女に少しだけ呆れた。
僕が先程しようとした事を忘れてしまったのだろうか。
俯き動かない彼女を横目にし、僕は突き返す様に話し、彼女を背にして話を続ける。
「女性がこんな時間に男の元へ来るものじゃない…それに君はもう豊臣の姫なんだ…早く、」
帰るんだ。