第1章 始
私の家には、この御時世に『刀』がある。
曾祖父の代から。
受け継がれてきた、曰く付きのその『刀』は。
無銘でありながら、きらびやかな装飾が施され。
黒塗りの鞘には、掠れた金の家紋。
丸に十字の『島津紋』だ。
我が家と何の関係があるのか。
それは、祖父も父も。
皆、知らないと言う。
ただ、来るときまで『抜くな』と。
そのときまで『手放すな』と。
刀剣商でありながら、曾祖父が商品として扱わなかった。
唯一の『刀』と聞く。
現在も、大事に。
祖父が受け継ぐ、その『刀』は。
やがて、父から私に。
使う用途も、手放すときも判らないまま。
受け継がれるのだろうか。