第8章 迷走する恋情(織田信長/裏)
朝になり目が覚める。
「今日は冷えるな…」
ふと隣を見ると、布団の中に迦羅の姿がなかった。
俺に黙って居なくなるとはいい度胸だ。
しかし、隣に迦羅が居ないだけでこれ程までに寒さを感じるとは…。
俺も困ったものだ。
「信長様、起きていらっしゃいますか?」
「ああ、今行く」
迦羅と共に寝起きするようになってからは、ゆっくりと眠れることが多く、こうして時間になると秀吉が天主まで様子を見にくるのだ。
今日は大事な軍議がある。
勝手に居なくなった迦羅への咎めは後にして、秀吉と共に広間へと向かった。
「お伝えしていました内紛の件ですが」
秀吉が報告を始める。
「新たに届いた伝令の話によりますと、内紛は更にその規模を拡大し、未だに収まる気配はないようです」
「やはり俺達が諌めに行くべきだろう」
目を爛々とさせ、政宗が俺の命を待っている。
「内紛といえど傘下の問題を捨て置くわけにはいかん。家康、政宗、貴様らも来い。」
「信長様も出られるのですか?」
「当然だ。俺が自ら出てやろう。早々に向かう」
そうして、傘下国の内紛制圧に向けての出発が翌日に決まり、城内では早急に準備が始まった。
ーその夜、天主に戻った俺は迦羅と布団に入りながら、制圧に向かうことを告げた。
軍が向こうに到着した時に、内紛がどのような状態であるかにもよるが、遅くとも十日程では戻って来られるだろう。
「お気をつけて、行ってきて下さいね」
迦羅はそれだけ言うと、いつもの笑顔を見せる。
「ところで今朝、何故勝手に抜け出した」
「早くから目が覚めてしまって…」
「俺を置いて居なくなる理由にはならん」
そう言って、迦羅の頭を引き寄せ、何度も口付ける。
「だ、だめです!」
口付け以降は、何故か迦羅は頑なに拒絶する。
明日からはしばらく貴様を抱けなくなるというのに。
「俺の何が気に入らんのだ」
拒絶されることにムッとしながら問う。
「いいえ、ただ…今日はあまり身体が優れないのです…」
消え入るような声で答える迦羅の姿に、それ以上強引に求めるようとは思わなかった。
欲望をぐっと堪えて、ただその身体を抱き締めながら眠りについた。