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【YOI・男主】愚者の贈り物

第4章 男子FS・前夜


ひとまずホテルに戻った勇利はシャワーを浴び、あまり胃に負担のかからない食事を軽く済ませた後で、純の宿泊している部屋を訪れた。
「ごめんなあ、試合の後で疲れとるのに」
「大丈夫。…多分、今日の内に聞いておいた方が良いと思ったから」
「…せやな」

純に帯同している藤枝コーチには、2人で話して自分と西郡の部屋に移動して貰っていた。
「明日もあるんだから、あまり長引いたり思い詰めたりはするな」と釘を差されたが、西郡達は勇利と純の言い分を了承してくれたのだ。
「何か、悪かったかな」
「ええねん。西郡くんはともかく、どうせ勇利が来ぃひんでもあの『ヒゲ』、下のバーや外で飲んどるか甘いモン食っとるかどっちかやねんから」
コーチに対してぞんざいな物言いをする純に驚く勇利だったが、ここに来た目的を思い出すと、備えつけの椅子に腰掛けた純を見た。
純に促されるまま空いているベッドに腰を下ろした勇利は、何だかヴィクトルと過ごしたGPFSPの夜のようだと思ったが、今度は自分が相手から引退の告白を受けたのだ。
「純は、本当に明日で引退するの?」
「ん。正直、この膝で競技続けていくのは、もう限界やねん」
「そう…」
「僕は、元々スケートは学生まで、て考えてたんや。お気楽な末っ子で好き放題させて貰うてるけど、やっぱ家族への負担も大きいしなあ」

国内のリンクの乏しさを始め、日本人が競技としてスケートを続けていくのは、金銭的にも非常に困難である。
特に男子は女子よりも厳しく、殆どの選手は学生卒業と同時に競技も引退するケースが圧倒的に多い。
「せやけど、怪我して…ホンマにこのまま卒業と一緒に終わってしもうてもええんかってなった時、やっぱりもうちょっとだけ続けたい、て思うたんや。怪我でスケートやめとった時間を取り戻したい気持ちもあって、僕はそのまま大学院に進んだ。まあ、勉強も嫌いやなかったしな」

とはいえ純の通う学校は、勇利ですら名前を知っているほどの名門校である。
昔から頭が良く何事にも冷静に対処する純の姿は、同い年の勇利にとってヴィクトルとは違う意味で眩しくもあり、同時に自分の劣等感から少々疎ましくも思う存在だった。
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