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【YOI・男主】愚者の贈り物

第3章 第2日目・男子SP


公式練習を終えた勇利は、スマホの時計を確認するとヴィクトルに電話をかけた。
「おはよう、ヴィクトル。こっちは、今練習終わった所。大丈夫、もうファイナルの時のような無茶はしないよ」
スマホ越しからでも充分心地よいヴィクトルの声を堪能していた勇利だったが、ふとそのヴィクトルから「そっちのTVを観たけどインタビューの時、勇利の隣にいた子は誰?」と質問が飛んできた。
「え?純の事?」
『随分、親しそうな口ぶりだね』
「えっと…純は、僕がノービスの頃から一緒に競技してた選手だよ。怪我で中断してたけど、この全日本で2年ぶりに会ったんだ」
『…ふぅん』
「それがどうかしたの?」
『別に。…ちょっと気になっただけ』

どこか拗ねたような声を出すヴィクトルに訳が判らないとばかりに首を傾げる勇利だったが、幾つか確認事項を話し合うと電話を切った。
その後、控室にマットを敷いて身体を解していると、ユリオことユーリ・プリセツキーからも「俺やヴィクトルがいねぇからって、舐めた演技しやがったら承知しねえぞ!」という何とも彼らしいLINEが届く。
ずっと自分は、孤独に滑り続けていくと思っていた。
否、そう思い込む事で他者を拒絶して自分の世界にこもり続けてきた。
だけど、ヴィクトルに出会ってから、自分は家族をはじめ周囲から様々な『愛』を貰っていた事にやっと気づいたのだ。
(そして、僕はこれまで純からもちゃんと『愛』を貰っていた筈。なのに…)

「お疲れさん。相変わらずスピンもステップもキレッキレやったなあ」
不意にその当人から声をかけられた勇利は、僅かに驚いた顔をすると「隣、ええ?」とマットを敷き始めた純を見た。
どちらかというとやや筋肉質で油断をすると肥り易い体格の自分とは違い、純は日本人にしては手足が長く、決して華奢ではないが全体的にほっそりとした印象を与えていた。
「僕も、純の練習観たよ。SPの『SAYURI』、昔FSでもやってたね」
「SP・FS両方共新しいの作るには、時間も人手も足らんかったしな。けど、その分僕のやりたい事全部つめさせてもろたわ。特にSPの『SAYURI』は、僕のフィギュア人生の中でも最高傑作やと自負しとる」

そんな純の横顔を眺めながら、勇利は小さく頷いた。
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