第10章 綺麗な白色
「申し訳ございませんでした、私の注意が足らず…」
床に落ちたコートを拾い上げてセバスチャンがかぶせる。
マーガレットは私を人が変わったように睨みつける。
なんとか荒くなっている呼吸を整えようと肩で息をし、セバスチャンのコートを掴む。
目が眩むほど甘い刺激はまだ続いているが、幸い、セバスチャンと他の吸血鬼が壊して穴が空いている教会の壁から吹き込む冬の冷気がなんとか命綱となっている。
床を見るといつのまにかマーガレットの頭上にいた吸血鬼も床に落ちて赤い血を流していた。
「私も…あなたに過信しすぎたわ…」
立ち上がろうとするが足に力が入らず、体が横にぐらつく。それをセバスチャンが腰を掴んで支える。
私はセバスチャンにしがみついてマーガレットを見ると恐ろしい形相でこちらを見ていた。
「どうして…私じゃなくてその女なのですか…あの時、特別だと…私の特別だと…私だけの特別だと…言ったじゃありませんか?!」
マーガレットが髪を掻き乱す。動物のような叫び声をあげて、床に拳を突き立てる。
真っ白な修道服に赤い血が滲んだ。
「確かに私は言いました。今は、あなただけだと…ね」
弄ばれた哀れな人間を見て悪魔は嗤う。
「人間とは言葉に弱い。自分の都合の良い通りに解釈して、それを間違える…滑稽な様ですね。シスター」
私はその時、なにか違和感に気づいた。何かが足りない。
何かが…
「そういえば…ジルは?」
あの柔和な笑顔の牧師がいない。