第17章 我儘に甘えて(秀吉)
廊下で心配そうにしていた女中を掴まえて
愛の症状を聞き出す。
『で?熱出てるのは今朝?』
不機嫌そうな家康に、ビクビクしながらも女中は丁寧に説明する。
『は?おととい?
おとといからあの熱が続いてるのに医者にもみせず、
俺の事も呼ばないでいたの?
ねぇ、下手したら、肺を患うかもしれないんだよ?』
家康は心底呆れた顔でため息をついた。
『あの…』
愛の事を教えてくれた女中が申し訳なさそうに家康に話しかける。
『なに?』
『愛様は秀吉様に心配をかけないように、
皆様にも内緒にしておきたかったそうなんです。
なので…家康様以外の皆様にはご内密にはできないでしょうか…』
(まったく…)
愛が考えそうな事だ…と
ため息をつきながらも
『わかった。一応、心には留めておく』
と、薬を作るために御殿へと帰っていった。
(俺だったら隠されてる方がよっぽど嫌だけどね)
女中たちと家康の居なくなった部屋で一人になった愛は、
布団を被り言いようもない寂しさに襲われる。
弱った時ほど逢いたくなるのは、大好きな人。
(秀吉さん、早く帰ってこないかな…
あ、でも今帰って来たら心配かけちゃうか…)
逢いたいけど逢いたくない。
もどかしい気持ちに、身体だけではなく、心も蝕まれていく錯覚に陥る。
(いっそのこと、秀吉さんがいる時に風邪引いた方がよかった…)
そうしたら、きっと秀吉は甲斐甲斐しく愛の世話をしてくれる。
あの大きな手で自分を包んでくれて、きっと片時も離れずに側にいてくれただろう。
(やっぱり、早く逢いたいよ…)
勝手に溢れてしまう涙もそのまま、愛はいつの間にか眠りに落ちた。