第2章 夏の話
それからずるずると爛れた関係を続けて、季節は夏になろうとしていた。
今日はバレエのレッスンの日、私は何も考えたくなくて、無心で練習に打ち込んでいた。
「ちょっと恵利、来た時から思ってたけどあんた隈が出来てるわよ、昨日ちゃんと寝てないでしょ?なんか悩み事?」
「ミナコ先生、心配してくれてありがとうございます。でも昨日面白いテレビ番組で夜更かししちゃっただけなんです。ごめんなさい」
昨日は朝方まで体を繋げていたせいで完全に寝不足。正直身体も痛くて仕方ないんだけど、今年はヴァルナ国際コンクールがある。少しでも練習したくて、気休めに痛み止めを飲んできたけど、目の下の隈まで頭が回っていなかった。
「………もうすぐヴァルナなんだから、体調管理はしっかりすんのよ?」
きっとミナコ先生には悩み事があるってバレてるんだろうけど、彼女は気付かなかったふりをしてくれたようだった。本当に彼女には頭が上がらない。
「はい。今回金賞狙ってますし、もう夜更かしないように気をつけます!」
「よっしその意気よ!こんなこと言ってプレッシャーかけたくないんだけど、うちの生徒の中で世界で通用する技術持ってんのあんただけだから期待してるよー、頑張ってね!」
ありがたい事に私は勇利よりプレッシャーに弱く無いので期待してもらえるのは苦にならない、うんん、むしろ嬉しく思う。
頑張ります。そう言おうと口を開いたところで、教室のドアが開いた。
「オジャマシマース!」
カタコトの日本語で、にこにこと人好きのする笑顔を浮かべて現れた男は今朝方まで一緒だったヴィクトルで、彼は勇利と練習に行ったはずだった。
「あれ?ヴィクトル、なんでいんの?勇利は?」
ミナコ先生も疑問に思ったらしく、私の聞きたいことを聞いてくれた。
「今日は早めに終わったんだ、ユウリオーバーワーク気味だったし。
それで、ユウリがエリの練習見に行くって言うから、俺もエリのバレエ姿見たいなーって思って2人で来たんだよー、ね、ユウリー、ってあれ?ユウリー?」
「ちょっともー、ヴィクトル急に走らないでよ!ミナコ先生、恵利姉ちゃん、急に来てごめん」
ヴィクトルから遅れてやって来た弟は肩で息をしていて、なんと言うか、兄弟そろってヴィクトルに振り回されている事実に頭を抱えたくなった。