第5章 魔法対決【英諾尼】
酔ったアーサーは厄介だ。脱いで喚いて見境がない。普段、僅かながら辛うじて保っている紳士の顔も何処へやら。おまけに星のステッキを取り出した日には必ずどこかで被害が出る。
そして今、その最悪な状態のアーサーが私の目の前にいる。アーサーが杖を振り上げた。魔法を遣うのだろう。アレを降り下ろされる前に何か対策を練らなくては……!
「させねぇべ」
不意に遠巻きに見ていたノーレが目の前に現れたと思うと、右手から光を発していた。その光が強くなったのはアーサーが杖を降り下ろしたのと同時だった。
「ほあたっ☆」
一体どんな魔法をかけられたのだろうか。強い光に眩んだ目が視力を取り戻していく。そこで何の変化もないことに気づいた。
「あれ? 私、今魔法が……」
「俺が相殺したんだべ」
ノーレがアーサーを見据えながら疑問の答えをくれた。なにそれかっこいい。ノーレの背中が頼もしく見える。どんな魔法も払ってくれそうだ。が、アーサーを見る目が怖い。夜色の瞳には不満の感情がこもっている。右手には再び光が集まり始めており、こらから魔法を使う気満々だ。
「邪魔すんなよな~」
白目のアーサーも星のステッキを構え直しちゃってこれはバトルの予感。
「魔法はお前だけじゃねぇんだべ」
「大英帝国様なめんなよ!」
二人は魔法対決を始めてしまった。巻き込まれないように冷や冷やしながら見守っているとトンでもない会話が聞こえてきた。
「に似合うんはチビ化より猫耳生やす魔法だべ」
「何でもかんでも猫耳にすりゃいいってモンじゃねぇ!」
どうやらノーレも完全に酔っていたみたいです。さっきのトキメキを返せ。馬鹿らしくなった私は二人に背を向けた。
離れた席でブルガリアやモル君と和気あいあいと飲んでいるルーマニアの元へやってきた私。
「もしあそこの二人から魔法が飛んできたら、カウンターしてくださいお願いします!」
「いいんだよー。何かあったの?」
「悪酔いした魔法使いに絡まれた」
「納得だね」