第2章 袖口から伝わる温度2【厚 藤四郎】
“はじめまして、厚 藤四郎と言います。”
そう書いては消して、また書いて。
スマホを睨みながら、彼女に送る文章を考える。
あの日、二度目に声をかけられた時。
彼女は涙でぐしゃぐしゃな顔を真っ赤にして、伝えたい事があると言いながら、俺に綺麗に折られた紙を渡してきた。
俺はそれを受け取り、ゆっくりと開くとそこには電話番号とスマホのアドレスがあった。
今時メールか、とか少し笑ったがプルプルしながらこちらを見ている彼女に悪いと思いなんとかのみ込んだ。
「えっと…五十嵐さんの?」
「…は、はぃ…よ、よろしくおねがいしま、す!!」
「…えっ、ちょっ」
俺が彼女に声をかけると彼女は一層、赤い頬を赤くさせ涙を浮かべる。
彼女はもう我慢の限界だったのだろうか、消え入りそうな声で簡単な挨拶をしてまた逃げる様に俺から離れていった。
俺はもっと彼女と話したくて、驚いて逃げる彼女を追いかけようとしたけど、彼女の逃げ足はめっぽう早くて、俺は一人取り残された。
「自分から伝えるって言ったのに」
俺の連絡先聞くの忘れるとか、本当に緊張してたんだなあとスマホの画面を見ながら少し笑う。
書いては消して、書いては消して。
固くなりすぎず、柔らかくなりすぎず。
書いては消して、書いては消して。
わからなくなって。
「まあ、いいや」
最後は諦めて、ただ挨拶だけを彼女に送った。