第1章 臆病なその奥/豊臣秀吉
「…もうっ」
舞が小さく唸った。
瞬間。
「ん…………っ」
舞の真っ赤な顔が近づいたと思ったら。
かすめるように口付けられた。
でも、それは本当に一瞬で。
驚く暇もなく、堪能する暇もなく。
唇をかすめただけの口付け。
「舞…」
それだけなのに舞はちょっと涙ぐんでいた。
潤む瞳で、秀吉を見据える。
「女の私から…こんな事させないで」
「あ……」
「嫌なわけないでしょう? 私は…秀吉さんになら何されても嬉しいの」
そう言って、胸元にすがりつく舞。
「秀吉さんは、きっと私を大切に思ってくれているから、口付けでも躊躇って訊くんだと思う。でもね、そんなのは望んでない」
「舞…」
心臓が痛いくらいうるさい。
駄目だ、舞。
それ以上は言うな。
歯止めが効かなくなる、優しくしてやれなくなる。
「まだ言わせるの? 私は、私は……秀吉さんさえ望んでくれるなら、いつだって、いつだって……」
「…………!!!」
(…ああもう。駄目だ)
秀吉は感極まったように、強く舞を抱きしめると、そのまま噛みつくように口付けた。
「ん…っ、あ」
唇を割り、舌を忍び込ませて絡めとる。
たどたどしく応える舞が、また愛しくて。
何度も何度も、その柔らかい場所に噛みついた。
「秀…吉…さん、んんっ」
深く口付けたあと、首筋に唇を寄せると、舞から甘い声が漏れた。
全てを奪ってしまいたい。
今すぐ、これでもかと言うほど甘やかしたい。
愛しさが込み上げて……
余裕なんて保っていられない。
格好悪くても、なんでも。
今すぐに……抱きたい。
ごめん、舞。
言いたくない事を言わせたな。
舞がそんなにまで想ってくれていたのに…
俺は臆病すぎた。
「舞…」
「うん…」
「舞っ…」
「秀吉…さんっ」
秀吉は舞の襟元に指をかけた。