第1章 臆病なその奥/豊臣秀吉
「秀吉さん、いらっしゃい!」
昼過ぎ、部屋を訪れると、舞は花のような笑顔で秀吉を迎えた。
(今日もいい笑顔だな)
「邪魔するぞ。 よしよし、綺麗に片付いてるな」
頭を撫でると、舞は気持ち良さそうに、ふにゃりと笑った。
それを見るだけで、手を出しそうになってしまう自分を、ぐっと堪える。
「秀吉さんが来るから、美味しい甘味も用意したよ」
「そんなに気を遣うな」
「気遣いとかじゃないよ、部屋に来た時くらいやらせて。いつも甘えてばかりだから…ね?」
(また可愛い事を……)
愛しさで心を満たされながら、腰を下ろすと、舞は秀吉にぴったりくっつくように隣に座った。
なんでいちいち可愛いんだ、こいつは。
「でも、私が居た世界の話かぁ……そんなに面白くないかもしれないよ?」
「いいんだよ。お前の事なら、何でも知りたいからな」
「ふふっ、ありがとう」
そう言うと、舞は身振り手振りを交えながら話し始めた。
五百年先の世界の話。
どんな生活がそこにあって、舞は何をしていたのか。
どんな家族が居て、友達が居て。
それを話す舞は笑顔だったけど、少し寂しげにも見えた。