第8章 第八章
狸寝入り、そんなに上手かったです?そう笑って言えば、カッと血の気が上ったように怒り膝丸さんは直ぐにでも帰ると言い出した。パシリと手首を掴み行かせないと笑う、折角来てくれたんだし少し話しをしようじゃないかと笑った。
「やっぱり膝丸さんが私を落としたんですね?」
「!…違う、そんなつもりではなかった。ただ兄者と楽しげに会話する君が少し羨ましく思えて…兄者と関わってまだ少しばかりだというのに距離感が近いと思い、離れさせたらまさか池に落ちて溺れるとは…」
「いや、膝丸さんが思っている以上に私の方がびっくりしてますからね?」
池って浅いものじゃないのか?というツッコミを入れてしまいたい所だ。あれでは池ではなく綺麗な沼や湖である、本当に死ぬかも知れないと思ったし大変貴重な体験をしたと思う。しかしもう一度したいとは思わないしこりごりだがと苦笑いした。
「そこまで気にしなくても大丈夫ですよ?わざとではないのは知ってましたし…」
「だが…」
「この通り怪我はありませんし、そう言えば私を運んでくれた髭切さんは今どちらに?」
「兄者は溺れた君を見て、感ずいたように上着を脱ぎ捨て同じように池へ飛び込み君を助けに…」
膝丸さんの言葉にぎょっとしてしまった、大変失礼だがまさか髭切さんが私を助けるとは思っていなかったからである。今は私が目を覚ました事を聞いて安心して眠っているのだと膝丸さんの口から聞いた。人魚姫の王子になった気分である、びしょびしょに濡れた髭切さんは同じように濡れてしまい意識のない私の身体を冷やさないよう上着を掛けて温めてくれて、そのまま横抱きして本丸を歩き回り薬研くんを探してくれた様子だったらしい。
「なんか、恥ずかしくなって来た…」
「結局主である君や兄者にも迷惑を掛けてしまい兄者に謝罪すれば、先ずは僕ではなく主に謝って来なよと言われ…」
「こんな時間に来てくれたんですね…ありがとうございます」
「なぜ君が感謝する!俺は君を…主を危険な目に合わせたというのに」
生真面目な彼だ、主である私に怪我では済まされない事をして責任を感じてしまっているのだろう。大丈夫だと笑って言ってもこう言う人程余計に思い詰めてしまうのは経験からしても分かる。それじゃあ…どうするかだが。
「では貴方に罰を与えましょう」
「なんでも言ってくれ、刀解でも構わない」
「それは絶対に嫌ですけど?」