第6章 【聖川真斗】ピアノを弾く者の手
「薔薇さんの手は綺麗ですね」
ボイストレーニングの一休み。
薔薇が淹れた紅茶を飲みながら、真斗は言う。
ピアノの上に手を置いていた薔薇はふと彼に目を向けた。”きょとん”という効果音のような表情になる。そして自分の手を見ると、そうかなぁと声を漏らした。
「そんなことないと思うけどなぁ。ほら、指をパキパキ鳴らす癖あるし」
関節太いよ、と真斗に見せる。
確かに真斗の方が指一本いっぽんが長く見える。しかし、薔薇もすらりと長いためそう太くない。
真斗の男らしさもある角張った手に対して、薔薇の手は丸みがあるものの血管が浮かんでいるために女らしさまでは見えない。
指の長さを比べるかのように手のひらを合わせてみれば、やはり、真斗の方が長い。
「やっぱりでかいなぁ。ちょっと悔しいかも」
そこら辺の女の子よりかはでかいけど、とへらり笑う。確かに、春歌と比べればでかい方だろう。
薔薇は真斗の手を取ると骨の流れに沿ってゆびをすべらせる。手を取られた方は緊張に身を固くする。
「男の人の手ってこんなに逞しいものなんだね。細いのにしっかりしてる」
きゅ、と絡めて羨ましそうに目を細め、伏目のようになる。伏せたことて見えるようになった長い睫毛に、真斗はグラスに氷を入れたようにカラン、と胸が高鳴った。