第19章 Op.19 事故
ウィスタリアの王宮も無事に新しい年を迎え
プリンセスの修行も順調に進み
3人の王位継承者の中では
徐々に「カイン」が新王即位の可能性が
現実味を帯びてきたところだった。
ルイはハワード公爵領の統治と
孤児院を中心とした慈善事業の活動に力を入れ
ノアはのらりくらりしながらも
ピアノを弾く機会が徐々に増えてきた。
ある寒い日の談話室。
外は雪がちらついていた。
カイン、ノア、ルイの三人。
それにレオと、珍しくジルもいる。
ユーリは5人分の紅茶の準備を始めている。
「…そういえば、レオナちゃんって今どの国で公演してんだろうね?」
「「日本」」
レオの何気ない問いにハモった答えが返ってくる。
「…ユーリ、てめぇなんでそんなチェックしてやがる」
「カイン様こそ何でですかー?」
「あ?俺はな、メイカの出身国に行ってるって聞いたからたまたまだ!」
「そーですかー…俺は皆さんのためにちゃんとチェックしておかないとね…執事として」
ユーリはいつもの紅茶を人数分用意している。
「カイン、プリンセスの出身国とはどのような場所なのですか?」
ジルは持ち込んだ仕事の資料に目を通しながらカインに尋ねた。
「知らねえよ、メイカは『密集した国だ』とか言ってたけど…意味分かんねえ」
「レオナ、ちゃんとご飯食べてるかなー…俺届けてあげたい…」
ノアはソファの背もたれにのけぞりながら天井に向かって呟く。
「年末に会った時、ちょっとやつれてましたもんねー…」
ユーリは少し眉根を寄せて紅茶を注ぐ。
「あ、ユーリ気付いた?」
「もちろんですよ…最初にハグしたから余計分かりました」
「ルイも気付いたー?」
…ルイは黙って紅茶を飲んでいる。
ユーリは意地悪な笑みを浮かべる。
「ルイ様が気付かないわけないですよね…」
ユーリの言葉にもルイは反応しない。
「あーそういえばさ」
ノアが声を上げる。
「最後の北米ツアーが終わるのが3月15日だよね」
「いや16日」
「いえ16日です」
またしてもややハモった返答が来る。
「…ジル、何で詳しいの」
ルイが目を細めた。
「…これも公務の一環です」
ジルは蟲惑的な笑みを浮かべた。
…外の雪は静かに降り積もっていた。