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「ありがとう。」と「いかないで。」

第2章 今日の出来事


今日もまた、見廻りをしている。
市中を巡回してみても平和で何もすることがない。

ぼーっと町並みを眺めながらぶらぶらと歩く。

すると突如、頭に走る鈍い痛み。
意識が朦朧としてくる。

意識が遠のく前。
俺の視界に映ったのは倒れる俺を嘲笑う見覚えのある顔だった。




何時間経っただろうか・・・
目を開けると見慣れない天井。
それなのにどこか懐かしいような匂い。

むくりと起き上がるとぱさっと落ちたタオル。
そのタオルを掴み、キョロキョロと部屋の中を見回す。

俺が目を覚ましたのに気づいたのか、タイミングよく開いたふすま。

開いたふすまから顔を出したのは、4歳くらいの女の子。
じーっとこっちを見ているが何も喋らない。
困ってその少女を見ていると、その少女の後ろから俺と同じくらいの年の女が顔を出す。

「あ・・・目、覚めたんですね。良かった・・・」

そう言いながらふわふわと湯気を立ち上らせるお粥を持ってきたその女。

「これ・・・良かったら食べてください。体調もちょうど悪かったみたいだし・・・。」

「ありがとう・・・ございまさァ・・・。」

そう言ってお粥の入っている皿を受け取ろうとすると頭に走る鈍い痛み・・・

こめかみを押さえ、痛みに耐えようとするが、あまりの痛さに声を上げそうになる。
すると、お粥を持っていた女が頭を押さえている俺にすっと近づき、そっと俺の頭に手を置いた。
さっきまで苦しんでいた痛みなど嘘だったかのように消えていった。
ゆっくりと顔を上げると俺に向かって優しく微笑むその女。

とっさに何かを言おうとした俺は口を開く。

「あの・・・」

「もう痛みはないですか?」

「え、あ、ありやせん・・・」

俺は目を疑った。
漫画では見たことがあったが、実際に淡い光を放つペンダントは見たことがなかったからだ。
しばらくするとその光は消え、元の色に戻った。

「それは・・・?」

「あ・・・これは・・・私の家に代々伝わるペンダントです。母の・・・唯一の形見です・・・・。」

そう言って大事そうにそのペンダントを両手で包み込む女。
まだすっきりしない頭で相手の名前を聞く。

「名前、聞いてもいいですかィ?」

「咲華って呼んでください。私にちゃんとした名前はないので・・・。」


咲華はそう言うと悲しそうに笑った。
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