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どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】

第1章 プロローグ


正直、あまり混乱も衝撃も悲しみも、無い。

死っていうものは、往々にして唐突だ。
思えば高三の頃、仕事から帰った父が突然倒れ、そのまま帰らぬ人となった日から、特にそう感じるようになっていった。
加えて、最近いつ死んでもいいと思うようになっていたから、こんなにも冷静なのだろう。
“私の、この役割の人生は私のものでなくてもいい”と、そんなふうに思いながら過ごす日々は決して楽しいものではなかったけれど、だからこそ、こんなにもすんなり受け入れられているのだろう。
ただ家族、特に母には、先立ち申し訳ないと思う。まぁ、私の方に落ち度があった訳ではない……はずだから、仕方のない事なのだろうけれど。

「ふぅ」

そこまで考えて、私は息を吐いた。
だいたい、死後の世界って概念は生きている人の為の物で、実際にあるだなんて少しも考えたことがなかったから、こうやって思考することが出来ることに、これでも凄く驚いているのだ。

「そう言えば、父さんにまた会えるのかな」

気付いた瞬間から徐々に湧き上がるそれは、久々に覚えた希望や期待感だった。
なんとなく、行くべき場所も分かる。本当に感覚的なものだから、説明は出来ないけど。
そうして星空を見上げながら、自分の運び込まれた病院を離れる事に決めた。
県外の田舎に住む家族が、そろそろ到着する頃だろう。ちょっとまだ皆の顔を見る気になれない。皆の悲しむ顔を見るのが、自分が死んだ事よりも、途方もなく辛い。
丁度、見覚えのある一台の車が門をくぐる。慌ただしく車を降りる数人の影を、私は注意深く目で追った。
ありがとう、急がなくていいよ、私はここにいるから、だから、転ばないでよね。
熱くなる目頭を押さえ、半ば逃げるように、私は宙を駆ける。ある程度の高さまで昇ったところで、すうっと息を吸い込み目を閉じた。

そうだ。
ずっと、死んでもいいとは感じていたけれど、未練が全く無い訳ではないのだ。
今になって、痛感した。

けれど曖昧な体は、吐く息と共に空と一体化していく心地がした。

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