どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第3章 特訓
レストランでのその後は、恥ずかしさでろくな会話ができなかった。自分の発した言葉を思い返せば、ただただ料理が美味しいという報告を繰り返していただけだ。
タクシーに揺られながら、両手で顔を覆う。
「にしてもお客さん方、こんな時間に行かれるなんて珍しいですねぇ。お知り合いでもいらっしゃるのかな?いや、こう見えて私も、昔は少々腕に覚えがあってね。喧嘩するだけで金がもらえる所があるってんで、着の身着のまま田舎から上ってきた口なんですよ。恥ずかしい話、こう、ちょいちょいっとやれば天下なんてすぐだと本気で信じてたわけです。とんだ自惚れだと気付くのに、そう時間はかかりませんでしたがね」
ははは、と白髪の混じる運転手が独り、陽気に身の上話をする。どうやらヒソカが誰かという事には気付いてないらしい。まぁ、いつもの奇術師スタイル?ではないから当然といえば当然だ。
「さあ、見えてきましたよ〜。まー、この街からじゃ見えない所の方が少ないんですけど」
言われて、顔を上げる。
「本当に大きいですね」
「なんてったって、地上251階、高さ991m。世界第4位の高さの建物だ。舐めてもらっちゃあ困りますよ〜」
巨大かつ異質。間近で見た印象はそれだった。タクシーの窓からでは、その全貌を窺い知る事はできない。確か、東京のスカイツリーが634m。高さだけでも1.5倍以上あるって事だ。元の世界じゃ、1位の建物だって850mも無かったはず。この高さで4位だと言うのだから、言葉が無い。
これが、天空闘技場。
──通称、野蛮人の聖地。
ヒソカの口からその目的地名が出た時は驚いたが、特訓内容については、着いてからのお楽しみだとはぐらかされた。
まさか着いて早々、腕試しに選手登録してきなよ、なんて言われやしないかと血の気が引いたものだったが、運転手の話の感じだと、どうもこの時間に試合はしていなさそうだ。
正直、ほっとする。
同時に、情けなさも覚えた。
……私は、単なる一般人だ。自覚もある。学生時代を思い返してみても運動神経自体は平均的で、特別良くも悪くも無かった。けれど、天空闘技場挑戦者は勿論、ハンター志願者ともなれば運動神経なんて飛び抜けていて当然だろう。そんな中では並の人間なんて、運動会に赤子が混じったも同然のはずだ。
……あまりの才能の無さに、幻滅されたらどうしよう。
手に、ぐっと力がこもる。