どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第8章 君の理由
けど、それでも、私はサキに、この世界を好きになって欲しいと思っている。
生きるのが楽しいと思えるように、なって欲しいと思っている。
生前、そう思えなかった私には、それが感情の押し付けだと分かっている。
けど、それでも。
『私、サキに幸せになってもらいたい』
絞り出すような声が出た気がした。
サキはそんな私を見て、目を細めた。
どうして、そんなにも悲しそうな顔で微笑むのだろう。
「なぁ、サキもそう思わねーか?」
と、突然レオリオに話しかけられる。
サキがはっとして顔を上げると、レオリオが左隣に来て走っていた。
すっかり意識の外だったため驚き、彼女は一度瞬きをする。
そしてまるで急カーブを切るように気分を変えると、レオリオに向かいニィと笑った。
「え、なに?まだトリの巣もどきの話?」
「いや、流石にその話は終わってる──っつーか誰のせいだと思ってんだオイ!」
レオリオに問われ、サキがわざとらしくヒュイと口笛を吹いた。
……先ほどの話のせいだろう、彼女の行動に痛ましさを感じてしまう私がいる。
そう思われることは彼女にとって本意でないだろうが──。
「皆で合格できればいいねって話だよ!」
右隣からそんな声がして振り返ると、ゴンがキルアとヒソカと共に走っていると知った。
「どうも誰かさんは、そう思っちゃいないようだが」
「勘違いをするな!私だって、理想を語るのが悪いなどと言うつもりはない」
口を尖らせるレオリオの向こうで、クラピカが心外だと言わんばかりに言う。
「じゃあ、なんだってんだ?」
「実力が伴えば、って話だろ?ま、オレはまず問題ないだろうけどね」
レオリオとクラピカのやり取りにしれっと割って入るキルアが、澄ました顔で言った。
「うわ、生意気」
「君も美味しそうだもんねぇ」
口走るサキの斜め後ろで軽く舌なめずりするヒソカに、皆の表情が引きつるのを感じた。特にキルアのそれが酷い。
「……まぁでも」
と、呆れ顔のサキが皆の足元に視線を落とし、吐息を声に変えた。
そして彼女はゆっくりとまばたきをすると、
「そうなると良いわよね」
なんて、微かに眉を寄せ呟いた。