どうやら私は死んだらしい。【HUNTER×HUNTER】
第8章 君の理由
『たかだか3階の高さだったけれど、人が死ぬには十分だったわ。おじさんは地面に頭をぶつけて、動かなくなっていた。驚くくらい呆気なく、おじさんは生き物じゃなくなったわ』
サキは、おじさんの頭部が平たく陥没していると気付きつつも、その頸動脈に手を当てる。感じるのは、失われる一方の温い体温だけだった。灰色の石畳には、おじさんから出た血液などが飛び散り広がっている。
誰かが、悲鳴をあげていた。
慌てた様子で、サキに声かける人もいた。
『……でもあたしはおじさんの亡骸を前に、どんな感情を持てばいいか分からなかった。ごめんなさいと泣けば良い?あんまりな裏切りだと憤れば良い?それとも、当然の報いだと笑えば良かった?……けど、こんなときに限って思い出すのは、優しく笑いかけてくれるおじさんの顔ばかり。あたしの心は悲しみたがっているようだったけれど、とても浸れはしなかったわ。……どこからが間違いだったんだろう、って、ただそう思った』
サキは語りながら眉を寄せる。
心臓が、潰れそうだった。
『それからの記憶は、あまり無いの。気付けば色んなことが済んだ後で、あたしは一人、街中を歩いていたわ。おじさんの死は、単なる泥酔の末の転落事故、って扱いになっていた。あたしは、初めておじさんに会った広場で、日が沈むまでぼんやり噴水を眺めたわ。生きているのが馬鹿らしくなって、この池に顔でも浸けておけば何もかも全部終わらせられるんじゃないかっていう馬鹿げた妄想が、驚くほど名案のように思った』
揺らめく水面。街頭の光に照らされ映るサキの顔はまだあどけなく、けれど本当に疲れ切って見えた。
『そんなとき、何故か路地裏の笑い声がやたら耳についたのよ。よくよく聞くとその人達、おじさんの話をしていたわ。そしてあたしは、おじさんに仕事が来ないよう仕向けたのも、今までの稼ぎを毟り取ったのも、そいつらの仕業だと知った。正確には、関係する組織の末端だったんだけどね。何かが、ぷっつり切れた気がしたわ』