第2章 子供のよく知る彼の詩は
味の感じない昼も食べ終わり、俺は兄弟達のジュースを買ってくる事を口実に、屋上から中庭へと逃げる。
花神さんを置いてきてしまったが、大丈夫だろうか…。
自動販売機で7人分のジュースを買い、両手に抱え落とさない様に屋上まで小走りで廊下を渡る。
そう言えば、皆、花神さんと仲良くなろうと話掛けていたが、仲良く出来ているだろうか?
迷惑でなければ、友達に…なんて。冗談キツいと笑われてしまうかな。
でも、知りたい。
あの銃の事、お兄さんの事、あの黒い怪物の事、知りたいと思ってる事、沢山。
知って、教えたい。
あの曇り空さえ綺麗と言った君に、沢山の景色を見せたい。
そう思ってしまうのは、彼女を憐れんでいるからではない。
同情に近いかもしれない。
失礼だろうか。
同じなんて、対等になりたいなんて。
図々しいだろうか?
屋上へ続く階段に差し支えた時、不意に何処からか歌声が聴こえてくる。
幼い頃に聴いた歌だ。よく母さんが歌ってくれた。
そうだな、確か──。
[眠れ 良い子よ 蝶の子よ]
あ…。
[花に包まれ 眠れ 良い子よ]
[黒い籠に 眠れ 良い子よ]
[今日と今日とて 飛べぬ子よ]
[百を数えて さぁ 眠れ]
[眠らぬ蝶の子 此方へおいで]
──まだ幼い子供の歌声がした。
歌詞を完璧に歌いきったその声の主を捜すが、周りには誰もいない。
あるとすれば、踊り場の鏡だけだ。
「…鏡なんてあったか?」
階段をあがり、鏡をじっと見つめる。
今朝と同じ目付きの悪い自分の顔が映るだけで、何のへんてつもない鏡だ。
「酷い顔だな。…俺じゃないみたいだ。」
呟いて笑ってみるが、苦笑いにしか見えない。
なんて醜い。これじゃ冗談でもナイスガイなんて呼べやしない。
ため息を吐いて、屋上への階段に歩みを進めようと見上げた階段。
が、そこには階段は無く、ドアがあるのみだった。
確かに屋上への階段を登ったのに。
不思議に思い踵を返すと、俺は今日何度目かの絶叫をした。
今、黒い影が、目の前に、居る。