第5章 それでも世界は廻るのだ
───時は過ぎて、夏休み。
あの日、彼女が死んでいたと知った日から、俺達は前より時間を一緒に過ごす様になっていった。
時折、消えてしまう時は手を繋ぐようにして、兄弟と帰るよりも彼女との時間を優先して、部活の時は流石に別々だがそれ以外はいつも一緒にいた。
知っている兄貴や十四松は、率先して俺達を二人にしてくれていた。
一松はそれに対して何にも言わないし、チョロ松は笑っていて、顔を歪ませるトド松の手を引いているのが最近の姿。
共に、何やら皆して余所余所しいのをよく目にするのが多発しだしたのも最近だった。
兄弟が気になったが、俺はいつ消えるか分からない彼女に"幸せな記憶"を贈りたいが故、兄弟の事などそっちのけでデートのプランを考える日々。
ゆっくりと時間が過ぎていく中で、彼女との距離が前より近付いている喜びが膨らむ。
同時に、ずっとこのままがいいなんて考えたりもする。
イケナイ事だと知りながら、止められないままに膨らむ感情は、今にも爆発しそうな位だ。
どうしようもない俺の中の事情などお構い無しに、終業式が来て、夏休みに入って…時間が進む。
そして、今、こうして約束をしたデートの待合せ場所に、時間より30分早く来ている俺は、最近一人でいる時に来る不安と苦痛に耐えるのだ。
──彼女との時間が終わらないで欲しいと叫ぶ胸の奥の声が、いつか行動に現れてしまうんじゃないか、彼女をまた苦しめるんじゃないかって。
……俺は、決めたんだ。
彼女の為に、俺は幼い俺の願いを、責任をもって叶えると。
そして、彼女を苦しみから解放してやるんだと。
時間は進むもの。
止まりはしない。
通り過ぎる人々の群れから、まだ時間まで30分もあるのに、彼女は歩いてくる。
白いワンピースに身を包む姿は、まるで天から舞い降りた天使の様で。
息をのむ美しさに見惚れていた俺を見つけ、笑顔で走り来る彼女は、前の彼女から想像がつかない位に可愛くて。
「カラ松君っ」
サングラスをぶち壊し、トド松コーディネートの服をしっかり整えて姿勢を正す。
デート初日──
俺は、今日より、"俺の感情の終止符"となる彼女の"幸せな記憶プレゼント計画"を実行する──。