第4章 願った事、叶えた事、願ってしまった事。
片や生き返って欲しいと、片や消えて欲しいと、きっとそう願う。
結局、入れてある肉体は違うのだから考えも違う。
僕とクソ松がいい例でしょ。
僕は他人を容易に信じない。でも、彼奴は容易に信じる。
十四松とチョロ松兄さんもそう。
マトモに見えない十四松が実は凄く現実的で、何より慈悲があまりにも無いとしたら。
マトモな筈のチョロ松兄さんはまだ、力で捩じ伏せようなんて考えがあると言っていい。
人間は、そんな早く変われはしないんだ。
─授業終了のチャイムが鳴る。
日直が号令をかければ、クラスの奴等は荷を持ち、音楽室を出ていく。
同じ様に、僕も荷を持って席を立つ。
音楽室を出ようとすれば、不意に音楽が流れた。
ピアノの音。
振り返ると、いつの間にか開いていた窓から吹いた風でカーテンが揺れていた。
「…誰」
尋ねると、ピアノを弾くその人の顔がうっすらと浮かび上がってくる。
……幽霊。
その霊がピアノを弾きながら、此方を見て微笑んだ。
「何もしないのね」
凛とした空気に溶ける様な声。
見た目からしても、自分と同じ年齢位の少女だ。
髪は薄く透明がかっているが、黒い髪に白いメッシュの入った背中までの長さで、瞳は緑色に見えた。
……顔は違うのに似てる。
「…別に。何かする必要もないでしょ……」
ぶっきら棒にそう返し、目を反らす。
七不思議…。
2番目のやつ、これか。
「ふふふっ。なら、私がなにかする必要もないわ。良かった」
「…そ」
ピアノの音がゆるやかに響き渡り、生暖かい風にのって周りを青くしていく。
…あー、これは…。
「……俺と遊びたいとか、趣味悪いね?」
「あら、遊びたいとかじゃないわ。……ききたいの」
きく?
「ね、聞かせて?」
ピアノがガァンと不協和音を刻み、驚いて彼女を見れば、霊は笑顔で僕の眼前に蝶と共に飛んでいた。
「─貴方の"願い"は何?」
…僕らしくない。
他人なんかどうでもいいって思うし。
でもさ。
「─時間。…遙に時間をあげてよ」
──あんな泣きそうな顔見たら、なんとかしなきゃって、馬鹿げた事を思っちゃうし。