第1章 あの噂
「……?」
頭を撫でていた方の手が、後頭部に来たかと思うと、ぐっと引き寄せられた。
あ、キスだ……。
唇が重なる。一瞬驚いたが、すぐにこれは必然だと思い至り、キスを受け入れる。
俺は、キスなんかしたことがない。
俺の話聞いているなら、俺が童貞ってことも知ってるよね……。
姫さんは、俺の舌を、一方的に嬲った。
俺だって……と思って、舌を動かすが、上手くいかない。そのうちに、酸欠になったのか、頭がくらくらしてくる。
足の力が抜け、膝がかくんと折れる。姫さんは、俺が勢いよく倒れないように、支えてくれた。それでも、その場にへたり込んでしまったけれど。
“据え膳食わぬは男の恥”。これ、俺の座右の銘。
しかし、今の彼女は、据え膳なのでしょうか。そして、俺は、魔法にでもかかったみたいに、壁にもたれ、脱力してしまっています。
むしろ、食べられちゃう……。
いや、でも……。
「俺を……食べてください……」
口をついて出たお願い。自分で言っているのに、しかも、きっと本心からの言葉なのに、思わず身体が震えた。
「やっぱり、ななしくんは、えっちだねっ」
姫さんの明るい声。その声は、親しい友人たちと会話する時のそれと変わらず……、俺だけ、何でこんなにとろけているんだろうと、疑問を抱く。
「あぁっ……」
姫さんが、俺の股間をつつく。羞恥が駆け上ってくる。
姫さんは、涼やかで、別に普通。なのに、俺ばっかり、こんなにたぎって、勃起している。
姫さんに指先でつつかれたそこをよく見れば、うっすら染みまでできていた。
姫さんは、変わらず、涼しい顔だった。俺に見せるのは初めてかもしれないが、教室でよく見せている顔。一つ違うのは、先ほどのキスで、口角から二人の唾液を垂らしていること。